失恋の痛みを抱えていた春の日、
雨の中で出会った彼は、優しくて、でもどこか壊れそうな目をしていた。
名前だけを交わして、何度か会ううちに、
わたしは彼の寂しさに、そっと手を伸ばした。
そして──
名前を呼ばれながら、初めて抱かれた夜。
それは、ただのセックスじゃなかった。
わたしは、恋に落ちていた。
けれど、「好き」と言った瞬間、
彼は、わたしを抱かなくなった。
触れたいのに、触れてくれない。
言葉が欲しくて、身体を求める。
身体を重ねても、心が届かない。
これは、恋に臆病なふたりの、すれ違いの物語。
“好き”の意味を、身体で確かめて、心で取り戻すまでの、春の記憶。
切なくて、やさしくて、
名前を呼ばれるたびに涙がこぼれそうになる──
そんな夜を、あなたにも。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-04-29 15:47:26
7673文字
会話率:16%