「…寒い。」
小さく呟いた声は震えていた。
手を持ち上げて、夜空に透かして見ると、何故かサーリャの体は空気に溶けてしまいそうなほど薄く、半透明で、体越しでも夜空に輝く星々をはっきりと認識することができる。
僕は、消えてしまうのだな。
サーリァは、そう思った。
そして、それは紛れもない事実である。これから、サーリァは消えるのだ。。
でもサーリァは別にそれでもかまわないと思った。最早、彼にはこの世に何の未練も、後悔も、愛着ですら残っていないのだから。
「ルドルフ様…」
夫となるはずだった愛する人を、親友であるカーラに奪われて早や3年。
彼らは、王城で一児をもうけ、幸せな家庭を築いていた。
サーリャは誰も憎んでいない。悪意さえ抱いてはいない。
ただ彼の心には、ルドルフに対する激しい恋慕が未だ渦巻いているだけなのだ。
『――過去に戻りたいか。』
消えおおせる直前、ある男のそのたった一言で、サーリャはカーラとルドルフが出会う前。
自分がルドルフの婚約者だった時期に戻ることを決めたが…――
その先に待っていたのは、予想もしなかった真実と、様々な者の複雑な思いが交錯する未来であった。
最終的にはハッピーエンドに。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2017-02-17 23:19:27
18087文字
会話率:38%