その時はまだ、これから引き起こされようとしている惨劇に、誰も気付けていなかった。
保育士となった省子(しょうこ・26歳)は、地元の寒村に帰り、鬱病を抱えながら、『ひもろぎ保育園』で初出勤を迎えていた。担当クラスの園児・三珠 智(みたま と
も・3歳)の描いた絵「夜のピックニック」に感銘を受けるが、智は突然、鋏(はさみ)で自分の前髪を切り落とすという奇行に出る。年齢にそぐわぬ特異な題材、卓抜した画力、そして何よりも手首にあった痛々しい裂傷が心配になる••。そこで省子は、智が家庭内で虐待に遭っているのではないか、それが原因で絵の世界に逃避しているのではないかと疑い、同村内の『南じゃこう保育園』に勤務する親友の里美(さとみ・26歳)にスマホのメールで相談する。
里美から紹介された喫茶店に行くと、魔女のような出で立ちの店主から、児童心理学に基づく助言を受ける。奮起して、三珠家の問題解決のために一度、園に戻るが、居るはずの先輩・狭山(さやま・53歳)の姿が消え、代わりに、まるで市松人形のような智が不気味に佇み、嗤っていた••。
一方、『南じゃこう保育園』では、普段の大胆不敵な素行の悪さを追求された里美が園を飛び出していた。そして、自分が担任する園児から得た情報が、省子からの相談に役立つかもしれないと思い立つ。キーワードは、地元では馴染み深い蛇嵩山(じゃこうやま)。バー経営者の雅哉(まさや・32歳)に車を運転させ蛇嵩山に到着すると、次々に不審なものを発見する。謎のタイヤ痕、無数の人魂、目を覆いたくなる殺人の名残り••。
こうして、黒いジャコウアゲハ蝶の群れが空を飛ぶ、暴風雨に晒された闇のような夜道を、省子は、智を連れて三珠家へ向かい、一方の里美も、省子に迫る危険を知らせるために三珠家へと走る。二人を待ち構えているものが、酸鼻極まる狂気の惨劇とも知らずに•••。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-10-08 18:26:32
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