神谷竜之介、御子柴碧衣、音無緋色、神宮寺天音、千里一花―――以上僅かたったの5名が“悪夢”の生還者だ。
日本中を恐怖のドン底に叩き落とした原因不明の失踪事件…通称《悪夢病》はある日突然起きた。
悪夢(ソレ)自体はただの悪夢―――その筈だ
った。
何時しか悪夢を視た者の中に『声が聞こえた』や『呼ばれた気がした』等と言う者がいた。
初めは単なる偶然だ、嘘か悪戯だろうと思われていた。…無理もない、誰が信じると言うのか。
段々とその“声”は近付いて来ると言うのだ、近付く“何か”は必ず悪夢の中で己を待っている。
段々眠って居る時にしか視なかった“ソレ”が―――起きている時にも“視える”ようになり、悪夢で待つ“ソレ”が悪意と好奇の瞳で己の側まで近付くと……少しずつ、そう“少しずつ”己の身体の一部を奪っていくのだ。
『先ずは眼、だ。その眼があれば吾は現世(うつせ)を視ることが出来る…―――ああ、良く視えるぞ』
“何か”は悪夢の中で意図も容易く己の目玉を繰り抜いて“何か”の空洞…眼孔とも呼べる其処に埋め込むのだ。―――悪夢を視た“人間”の眼を。
ニタリ、と異形の化け物が嗤うと……現実の人間の眼孔からは夥しい血飛沫が飛び散り激痛にのた打つのは現実の悪夢の犠牲者。悪夢で繰り抜かれた通りに何か強い力で抉られた両目は耐え難い激痛と喪失感を悪夢を視た者に確実に与える。しかも対象不可能だ、“寝ない”選択肢を執ろうとしても無駄で異形に…悪夢に潜む怪異の化け物は摘出した“眼”を通して此方を捉える。
一度でも声を聞き存在を認識された人間は怪異の化け物からすれば“餌”でしかない。
眼の次は他の部位――それは鼻か耳か腕か―――はたまた内蔵の何れか。
…恐ろしい事に“怪異の化け物”は口だけは…喉だけは最後に取っておくのだ。
理由は単純明快。怯える声、怒号、命乞いの声…それ等恐怖に彩られた嬌声を聞きたいから。それだけの理由だ。
不思議と心臓を脳を取り出されても死ぬ事はない…ただ現実の身体にあるべき場所に臓器がないだけ。
その状態でも生命活動が維持されているのは殊更に怪異の化け物の有難迷惑な“慈悲”。
ソレが飽きた時点で悪夢を視た人間は存在毎怪異の化け物と場所を入れ換える。
当然現実に異形の化け物はいない、怪異の餌となった人間は失踪扱いとなり現世に顕現した化け物は現実世界での自由を得る―――永遠に。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-02-27 00:00:00
11906文字
会話率:38%