碧山 誠(あおやま まこと)が、友人の誘いに乗ってそのダンスパーティ――『貴堂院女学苑』K等部が毎週末開催しているダンスパーティ――に参加したのには、実は秘めたる個人的な理由があった。
その主催者こそ誠の《憧れの君》貴堂院 愛姫(きどう
いん いつき)その人だったからである。
もしかしたら、『姫さま(愛姫の愛称)』に逢えるかもしれない。万が一にでも、一曲でも踊れたらどんなだろう……前夜、寝しなに思い描いた誠の願望(妄想)は、しかし、ものの数瞬で儚く消えた。
そこは、圧倒的に身分違いを思い知らされるハイソなパーティだったのだ。
しかし、失意のままにその場を去ろうとした誠は、ふとした偶然からそのダンパ会場の地下で催されていた、もう一つの『会』に紛れ込んでしまった。
そこで何と憧れの愛姫に出会った誠は、訳が判らない内にその『会』に入会されられてしまう。そして、その貴堂院女学苑のハイソなお嬢さま方の中でも更に選び抜かれたお嬢さま方の集う『会』の本当の顔とは……。
誠はその地下ホールで踊るお嬢さま方の優雅な立ち居振舞いとは裏腹にその衣装の奇抜さに唖然とさせられるのだった。洋画の中の『仮面舞踏会』を彷彿とさせる目線だけを隠すような仮面は良しとしても、煌びやかな衣装は何故か皆、当然のように乳房と股間が繰り抜かれて剥きだしだったのである。――これぞ、裏社交界に君臨するオートクチュール工房《TOHOKO(トウコ)》のまさに裏バージョンの衣装の揃い踏みであった。
愛姫たち上流階級のお嬢さまにとって、結婚とは政略結婚に他ならない。企業家や政治家とのしがらみの中でより大きな利益をもたらす結びつきの道具としてのみ、彼女たちの『結婚』は存在した。
それ故、逆に結婚までの自由な時間は、しがらみのない自由恋愛を享受する権利をそれぞれの家父長から与えられていたと言っても過言ではなかった。その為にこそ、家父長の公認と援助の下に、この『会』は存続していたのである。
つまり、誠が紛れ込んだ地下ホールの『会』こそ、そんなお嬢さま方が一夜の秘めた遊びを享受する秘密のパーティだったのである。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-09-10 19:00:00
154592文字
会話率:44%