春のある日、セーヌの下流側に位置するビル・アケム橋の下で、実験の最中に絶命した実験体の男が水死体となって発見される。水死体は眼球と舌が取り除かれていて、検視ではさらに内耳と鼻腔内の感覚細胞が切除されていることが分かる。加えて奇妙なのは、セ
ックスの最中についたとしか思えない爪痕が男の背中には残っていて、遺体の表情が極めて幸福そうに笑っていることだ。セーヌで見付かった類似の水死体は二件目である。
待ち合わせの場所であるフォーブル・サントノーレのコーエのオフィスでは、TKOのパートナーになるべくシャロン・シャノンというアメリカ女が待ち受けていた。
コーエが求めたDNAの検査によって、CIAの工作員であるシャロンは、ペンタゴンの生化学研究所で遺伝子操作して産み出された試験管ベビーであることが分かり、TKOは、敵の力を得るために敵の肉を食すという中央ペルーのカンパ・インディアンと同様の遺伝子を持って、攻撃性を司る十五の遺伝子をすべて持ち合わせていることが分かった。彼らはどちらも心に深い闇を持ち、心に満たされない空洞を持つ。コーエは今回の捜査には、そうした二人が最適と考えたのだ。
コーエからの依頼の内容は、指定した研究所で脳科学の検査を定期的に受けるのを義務として、プログラムに従って、映像に残った謎めいた老人を捜し出すことだ。それ以外に具体的な説明は無い。コーエがユングやフロイトの研究を引用したことが、なおさら捜査の具体性を欠如させた。
そんな二人を、夢と現実の世界を行き来する「ルーナシィ」と呼ばれる秘密めいた一族の男女が監視している。第一のプログラムは、オルセー美術館内に展示されているアンリ・ルソーの「蛇使いの女」という油絵だ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-11-20 08:40:56
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